研究科・学部紹介

研究科長のメッセージ

研究科長 佐藤主光

新型コロナの感染拡大を経て、世界は大きく変わりました。資源価格の高騰もあり、長く続いたデフレ(物価の下落)がインフレ基調に転換しています。ロシアのウクライナ侵攻など我が国を巡り安全保障も厳しさを増してきまた。「これまで通り」が通用しない時代になったのかもしれません。他方、日本の社会はややもすれば、これまでの経験を重視する「経験偏重」だったことは否めません。とはいえ、世の中の不確実性が増す中、過去の経験を基にして、自身や社会のこれからを判断ことは難しくなっています。ではどうするか?経済学が提供するのは「体系化」されたエビデンス(証拠)とロジック(論理的思考で)です。

19世紀の英国の経済学者マーシャルは社会的な課題に立ち向かうのは「冷静な頭と温かい心」が必要と説いています。敢えて言えば、冷静な頭とはエビデンスとロジックであり、温かい心とは使命感ではないでしょうか。使命感に繋がるのが社会に対する問題意識と好奇心だと思います。大学は受験のように「与えられた」問題の「決まった」答えを探し出す場ではありません。問題は皆さん自身が見出すべきものであり、答えも自ら探求しなければなりません。大学の教員は講義やゼミを通して学生を「伴走」するのであって、答えを与えるわけではないのです。自ら率先して学ぶ。「考える力」が求められます。

また、ケインズと並ぶ20世紀を代表する経済学の巨人シュンペーターは経済発展の原動力として「イノベーション」を挙げました。日本語ではイノベーションは「技術革新」と訳されるため工学など理系の話と思われるかもしれません。しかし、イノベーションとは新たな技術の創出に留まらず、異なる技術、技術と経営の「結合」を含みます。日本は「モノづくり」の国であり、高い技術力が誇りとされてきました。一方、日本経済は長く停滞しています。賃金も伸び悩んできました。日本の技術力が「実装」と言いますが、社会で十分に実践・活用されてこなかったこともあるかと思います。ここで求められるのが社会科学の知見です。一橋大学は社会科学の大学ですが、四大学連合などを通じて理系の大学とも連携を強化してきました。多角的な視点を持つことができます。

無論、その前に皆さんには経済学の高度な知識を習得してもらわなければなりません。一橋大学は学部では経済入門から、基礎科目、応用科目まで段階的な科目群が提供されています。更に学びたい学生には5年間(学部4年と大学院1年)で修士号まで取れる「5年一貫プログラム」があります。研究科(修士課程)では理論・実証をはじめ専門的な科目の他、実践的な学びができる「高度職業人養成プログラム」が実施されてきました。学んだことをお勉強に留めないで社会で実践できるようになってください。更に、一橋大学は海外に多くの提携校があり、留学のチャンスにも恵まれています。こうした機会を積極的に生かしてもらえればと思います。

皆さんが経済学部・経済学研究科で学ぶことを通じて、国内外、様々な分野で活躍できる実力を身につけられるよう期待しています。