論文を書くための勉強の仕方について

教授 山重慎二

まず私自身は、現在、修士論文にせよ、博士論文にせよ、短期間に完成させることが期待されているものであるという点に注目するならば、それらはあくまでも学位という資格を獲得するための論文であると割り切って考えた方がいいと思います。つまり、それらは「自分の考えを体系的にまとめて世に問う」といった論文である必要はなく、「私は(修士あるいは博士という)学位に値する能力を持っています」ということを示す論文であればよいということです。

このような心構えの違いにこだわるのは、それが論文を書くための勉強の仕方について考える時、とても重要だと思うからです。もちろん、ある問題について強い関心を持ち、その問題について大学院時代に深く掘り下げて勉強したいという希望をもち、そのような研究が順調に進むならば、あまり問題とはならないと思いますが、そのような恵まれた状況にない可能性も高いと思います。

そのような時の私のアドバイスは、体系的な論文を書くためのテーマ探しに時間をかけるのではなく、自分が面白いと思った問題で、自分でも取り組めそうだと思う問題について、(指導教員と相談しながら)どんどん取り組んでいくようにした方がいいよというものです。そして、十分に深く取り組んだ問題が増えていけば、それらを束ねることで論文ができるはずです。(いずれの問題も、自分が面白いと感じた時点で、ある種の共通項を持っていることが多く、それらを束ねるタイトルは比較的簡単に見つかるものです。)

修士論文と博士論文について、もう少し具体的に書いてみます。まず、修士論文についてですが、次のような定型化されたステップが考えられます。(1)自分が面白いと思う論文(出来るだけ最近のもの)を3本選ぶ。(2)それぞれの論文を、何度も何度も読んで、ほぼ完全と言えるくらいまで理解する。(3)納得できるまで読み込んだら、それらの論文で参照されている論文の中で、読んでみたいと思わせるものを順次読んでいく。この3つのステップを続けて、10本くらいの論文が「自分のもの」になったら、「修士号」という資格に値する修士論文は書けると思います。10本くらいの論文の内容を整理するような修士論文の構成(章立て)を考えて、それぞれの章が十分説得力があるようなものにするために、今度は、かなり貪欲に論文を読んで、既存の研究の全体像を理解し、その上で、自分の意見やモデルが提示出来れば、修士論文としては十分だと思われます。

次に、博士論文についてですが、こちらは修士論文とは異なり、自分のオリジナル貢献が必須となりますので、到達目標が高くなりますが、上記のステップは基本的には同じだと思います。違うのは、既存の研究の全体像について理解すると同時に、1つでもいいから、そこにない新しい結果を提示出来るようにならなければならないということです。しかし、勉強の仕方自身については、上で書いた(1)〜(3)と基本的には同じでよいと思います。ただ、博士論文の場合には、新しい貢献を行うために、それぞれの論文を読む際には、不十分なところや不適切だと思われることろを見つけだすという意志を持って読むことが役立つと思います。そして、欠けているところを埋めてみることで、新しい貢献ができ、博士号という資格に相応しい論文ができると思われます。

いずれの場合にも、とにかく読めそうで、かつ、面白そうな論文からどんどん読んでいくという勉強の仕方が、学位取得のための最短コースにつながると思います。ただし、いずれの場合でも、上記(1)〜(3)のステップについては、各時点で指導教員と十分連絡をとって進めることが非常に重要だということは、心に留めて置いて欲しいと思います。このことを怠り、基本的に自分でやろうとすると、かえって遠回りになると思います。このことに限らず、大学院では、指導教員とのコミュニケーションを密にとることが最も重要な心構えのひとつです。

繰り返しになりますが、このような勉強法は、あくまでも私が勧める一つの考え方であって、論文を書くための研究の仕方として何らかのヒント・参考になればと思います。指導教員が決まったら、とにかく、指導教員とよく相談して、研究をすすめていくことが何よりも大切です。