経済学をいかに学ぶべきか

教授 岡田 羊祐

経済学は役に立つ学問だと思いますか?実は、経済学の考え方はどんどん変わってきています。また経済学者同士で意見が異なることも珍しいことではありません。経済学は、自然科学のように確固とした発見とか事実に立脚しているとはいい難いようです。自然科学が対象とするのは、広い意味での「モノ」です。「モノ」はちょっとやそっとのことではその性質が変わるということはありません。一方、経済学を含めた社会科学が研究対象とするのは、広い意味での「ヒト」です。経済学の対象は人間なのです。人間の考え方は時代とともにどんどん変わっているのです。

 でも経済学が役に立たないと言いたいのではありません。人間同士が取り結ぶ契約とか合意とか、それによって形作られる「制度」は、すべて経済学の対象となります。私が言いたいのは、経済学を学ぶ際には、主に経済活動が対象となるとはいえ、人間に対する興味がその基盤となるべきだということです。お金の動きも技術の変化も、すべて「ヒト」が為すものです。経済活動に関わる動機(経済学では誘因とかインセンティブといいます)やメカニズム(選択・交換・情報・分配などがキーワードになるでしょう)について、深い理解を得ようとする努力が求められるのです。

 皆さんが大学を出た後に何をしているかといえば、家族・職場の同僚・顧客・お役所などと常に相談しながら日々の生活を送っています。そして、どのような場面であれ、何らかの合意を取り結ぼうとする場合には、参照されるべき規範的考え方というものがあるはずです。私たちの間でそのような慣習や規範に共通点が見出せなければ、合意形成はそれだけ難しくなってしまいます。法学・経済学、あるいは人文科学を問わず人間を対象とする学問はすべて、人間同士の合意形成に非常に役に立つ学問なのです。人間同士が合意を形成する場は、家族、企業、地域社会、国家、国際社会などさまざまですが、合意の質やその複雑さの程度によって、求められる専門的知識の程度は異なってきます。

 どのような人間観に立つかによって、依拠するべき学問は異なってきます。人間の「合理性」について考える場合には経済学はよいツールとなるでしょう。しかし、必ずしも「合理性」だけによって人間は説明できないのは当然です。例えば、心理学は、合理性に留まらない、より広い観点から人間行動を科学的に解明しようとする学問です。じつは心理学と経済学の距離は思った以上に近いのです。また人間の犯罪行為を対象とする刑法学では、合理的人間観のみに立脚していたのでは議論が成り立たないでしょう。ただし、こと経済活動に関しては、合理性に依拠した議論が強い説明力を持つことがしばしばあります。経済学はそのような場合に大いに威力を発揮します。

 最後に経済学部生の皆さんに対して私が望むことを申し添えます。それは「言葉」に対する感受性を大事にしてほしいということです。あたりまえのことですが、話す・聞く・書くなど、すべて「言葉」をベースに人間同士のコミュニケーションは成り立っています。大学では、学期末試験はもとより、ゼミナールでの報告や卒業論文、学内誌への投稿など、普段よりフォーマルなコミュニケーションの場がいくつも提供されます。こういった場を通じて、きちんとした内容をお互いに理解しあえるように言葉をつかう、こういう能力を鍛えていってほしいと思います。このような能力を高める秘訣は、自分も含めて「ヒト」について強い興味を持つということではないかと思います。それは、経済学を学ぶ際にも、強い動機を皆さんに与えてくれることになるでしょう。