一橋大学経済学部は、1875年に森有礼によって開所された商法講習所が、東京高等商業学校、東京商科大学などを経て、1949年に一橋大学に改称されたのを機に、商学部および法学社会学部と共に、独立した学部として設立されました。そして、その3年後(1952年)には、大学院経済学研究科を備えるに至ります。
戦後の高度成長期を経て、大学への進学率の増加と歩調を合わせて規模を拡大してきた一橋大学において、経済学部・(大学院)経済学研究科は、時代を先取りするような改革にいち早く取り組んできました。近年の取り組みの中では、1991年4月、中川学経済学部長の下で、石弘光教授(前一橋大学学長)を座長として発足した経済学部懇談会が、同年10月に経済学部改革の柱として打ち出した「大学院大学構想」は、特に重要なものです。
理工系の大学・大学院と異なり、「社会科学系の大学教育が大学院修士課程まで想定する必要はないし、未だそのニーズも無い」という意見もありましたが、我々は、主として次のような3つの理由から、学部ではなく大学院を基礎とする「大学院大学」への移行を推進することを決意しました。
(1)大学院が広範に大衆化した現在、かつての国立大学が担っていた高等教育の役割は、これからの100年間を考えると、大学院教育を推進することと、高度な先端的研究を押し進めることになると考えられること。
(2)優れた研究者養成のためには、ある程度の大学院規模の拡大が必要であり、大学院教育の質を高めなければ、優秀な大学院生をアメリカ合衆国をはじめとする海外の大学に奪われ、大学院教育の空洞化が懸念されること。
(3)研究者を目指していない学部生に対しても、これからは、より高度な専門職を視野に入れた教育を行うことが重要であり、我が国の経済・産業界に対しても、そうした必要性を積極的にアピールしていくことが肝要であると考えられること。
その後、大学院重点化は、学部4年と修士2年を連続させる「6年一貫カリキュラム」の構想を踏まえながら慎重に行われ、1998年4月に完了し、経済学部という名称の代わりに、経済学研究科という名称が用いられるようになりました。(言うまでもなく、経済学部という名称は経済学研究科の学部生教育に関するも部分として、そして学部生が 所属する学部名として現在でも用いられています。)
現在の経済学研究科の教育面での重要課題は、上記の「6年一貫カリキュラム」をさらに洗練していくことです。現在すでに、学部在学中に大学院科目を履修することによる修士号を1年で取得する「飛び級」が可能となっており、現実には5年で修士号を取得できる体制を整えています(『5年一貫教育』)。また、大学院修士課程における授業は、(輪読形式ではなく)講義主体で行われるようになり、さらに基礎的な理論を学ぶコア科目では、TA(ティーチング・アシスタント)を主体とする演習の時間を設けて、いわゆるコースワークを充実させ、体系的な知識を学びやすくする環境を整えてきました。そのような環境整備を通して、質の高い修士や博士を数多く育てていくと同時に、比較的短い時間で高い水準の教育と学位を修得できることを明確にして学部生の勉強意欲を高めて行きたいと考えています。
一方、研究面での経済学研究科の重要課題は、非常に動きが早くなっている経済に対応した先端的な研究もまた積極的に行われるような柔軟な研究環境を整備することです。そのために、2000年度から現代リサーチ・ネットワーク・プロジェクトを立ち上げ、国内外に開かれた研究体制を構築し、我が国のみならず世界の研究をリードするような研究・教育を目指すプログラムをスタートさせました。今後、そのようなプロジェクトをさらに財政面で強力にサポートする体制を整えて行く必要があります。
現在、一橋大学では、4大学連合構想の下で、他大学(東京工業大学、東京医科歯科大学、東京外語大学)との連携をはかり、教育・研究の両面で、新しい成果を生み出すべく、体制を整えています。言うまでもなく、経済学研究科でも、そのような取り組みに積極的に参加しており、今後とも、国立大学の独立行政法人化、さらには、その後のありうべき姿を見据えながら、教育・研究の両面での環境整備を行い、世界で通用する研究と人材を生み出していきたいと思っています。
一橋大学は、国民の税金によって、その教育・研究活動が支えられている国立大学法人です。従って、我々には、最大限の努力と熱意をもって社会に貢献できるような研究を行い、すべての学生に最高水準の教育を授けて社会に送り出すことが期待されていると言ってよいでしょう。
そのような社会的使命を果たすために、すでに紹介したように、経済学研究科もまた様々な改革および試行錯誤を続けながら、優れた研究および教育の成果を生みだしてきました。各教員の活動の紹介を見ていただければ、各々がその与えられた社会的使命に相応しい活動を行っていることを確認していただけるかと存じます。また、今後とも、さらに上を目指して努力を続けていく所存です。
経済学研究科では、現在もなお、時代に相応しい研究・教育の在り方を求めて制度改革を続けています。今後とも、進化を遂げながら高い水準の研究・教育を行おうとしている我々の活動に注目して頂きたいと思います。