教員紹介

Matthew Noellert(マシュー ノーラット)

主な研究テーマ

子適衛,冉有僕。子曰:「庶矣哉!」
冉有曰:「既庶矣。又何加焉?」曰:「富之。」
曰:「既富矣,又何加焉?」曰:「教之。」

孔子が衛の国に行かれた。冉有が御者として車を御した。
孔子がおっしゃった。「人口が多いね!」
冉有が言った。「すでに人口が多いとすれば、また何を加えましょうか?」
「富ませよう。」
冉有が言った。「すでに富裕とすれば、また何を加えましょうか?」
「教育しよう。」
                      --《論語·子路》


(1)20世紀の家庭農業から産業組織へのグローバルな大転換。
基本的な問題関心は、人類史上最も重大な変化の一つである上記の転換がいかにして社会的行動様式や社会的組織規定したのか、また逆に既存の農耕社会組織がこの転換をどのように形成したのか、この2つの点を比較の視座から研究している。

(2)20世紀中国における農村革命の実証的研究。
2020年に上梓したPower over Property: The Political Economy of Communist Land Reform in China (『権力に屈した所有権―中国共産党の土地改革に関する政治経済学―』)(ミシガン大学出版社)では、中国東北地方の500以上の村落共同体における土地改革の諸類型とその実践過程を検証した。数万件に及ぶ土地没収と、分配、暴力事件を記録したデータベース(CRRD-LR)に基づいて分析を行った結果に、20世紀前半中国農村社会では、経済資源(財産)との関係よりも、人間(権力)との関係の方が重要であったことを明らかにした。

(3)社会主義社会における社会階層。
2014年より山西大学中国社会史研究センターのポスドクとして、1960年代社会主義教育運動を通じて作られた「階級成分登記表」に基づいたデータベース(CRRD-SQ)の作成に参加した。この「登記表」は社会主義(ポスト資本主義)社会の新たな階層化を図るために作られた斬新な資料であり、20世紀前半を通じた農村社会の転換を描出する個人レベル及び世帯レベルでの社会人口史、経済史、政治史についての詳細な記録が収録されている。共同研究者と一緒にこのデータベースの分析によって20世紀中国農村部における結婚行動、血縁関係、社会的階層と流動、富の分配等の展開過程などを研究している。

(4)数量社会経済史方法論。
Lee-Campbell共同研究プロジェクト(Lee-Campbell Research Group)では、個人レベルでの歴史人口データ及び経済データを大量に用いて、社会のダイナミズムを下から再構築してきた。この大量のデータを用いる下からの帰納法的なアプローチによって、歴史の演繹法的な上からの解釈に基づく既存の社会理論を超克することが可能となろう。

講義およびゼミナールの指導方針

現代はスマートフォンやインターネット、AIなど新しいものが多い一方で、社会的不平等や希少資源、独裁政治など古いものも多く存在する。つまり、私たちは過去から多くのことを学べて、より良い未来を築くことができる。孔子や宋明理学者、ヨーロッパのルネッサンス期の人文学者、明治維新の志士など、いずれも過去から学ぼうとした人たちであり、私の指導もこうした観点から行っています。

取り分け一貫した指導方針は、過去を理解する上で、データに忠実でかつ比較の視座に立ったアプローチの重要性を強調することにある。一次史料を身近において、歴史のなかの人びとや空間について一体何を理解でき、何を理解できないかを学生に批判的に考えさせる。過去について考える際には現在の視点を用いるわけにはいかないため、歴史とは本質的に比較的な性質を有する。学生たちにはこのような比較の意味を明らかに理解してもらった上で、時空をまたぐ比較の視点を使って社会経済上の問題についての理解を深めてもらう。

一橋大学での科目
「経済史入門」では、今のような世界の仕組みが必然的ではなく、昔から色々な持続可能な人間社会が活躍したこともあり、今後は新たな社会制度も生じるとの考え方を学んでもらう。昔の、東洋の、様々な社会制度との比較に通じて、受講者が最も広い視野で将来に向き合えることを目指す。

「経済史B」では、近年まで中国の全人口の約5分の4を擁する農村社会の視点から近現代中国の社会経済的発展を紹介する。講義の主題は、近代的発展がいかに農村社会を変化させたのかという点だけではなく、農村社会がそうした発展をどのようにもたらしたのかという点にもある。例年の教科書はPerkins 1969, Agricultural Development in China, 1368-1968である。

「経済史特殊問題」では、一次史料からミクロデータの収集と、歴史的データベースの構成と分析の方法を身に付けることが講義の目的である。歴史学やミクロデータ、データベース分析の初心者に向けて、そのような手段やツールが自分の関心を持っている研究テーマについてどのような新たな視点を与えるかを学んでもらう。

「東洋経済史」では、近現代世界を規定してきたヨーロッパ中心論を乗り越え、21世紀のためにより包括的な新しい社会経済論を打ち出すことを目指す。輪読とディスカッションでは、中国の伝統的な政治経済理論を、現在のグローバルな問題の観点から調査する。例年の主な文献はPiketty 2020, Capital and Ideology; Du Halde, P.J.B 1738, A Description of the Empire of China and Chinese-Tartary; and de Bary et al. 1999-2000, Sources of Chinese Tradition (two volumes)である。

「比較経済史II」では、チームティーチングに通じて学部生・院生は学術研究の実践的な経験を積み、歴史研究者としての二つの基本的な作業、すなわち先行研究の評価と一次史料の発見と分析について学んでもらう。一つのテーマに焦点を当てることで、履修者は既存の知識と新たな史実を統合することを目指す。

「学部ゼミナール」では、世界最大の社会経済理論の大系を探求するための基盤として、漢文の読み方を身につける。3年次には、漢文の読み方を練習しながら、中国政治経済の基本を学ぶ。4年次に、歴史分析の方法と学術論文の書き方を学ぶ。

「大学院ゼミナール」(演習)では、実証的な研究論文を作成するために、履修者が自主的な研究計画を開発しつつ、一次資料の発見、整理、分析の手法を習得し、研究結果の描写を彫琢してもらう。口頭報告や自由に交わす議論を通じて、共同的、比較的な研究方法の指導を行う。

教員HP
https://shss.hkust.edu.hk/lee-campbell-group/people-overview/matthew-noellert/ (中国語)
E-Mail