教員紹介

森 宜人(もり たかひと)

主な研究テーマ

一貫した研究課題は、主に19世紀後半~20世紀前半のドイツをフィールドとして、近現代ヨーロッパの社会変動を都市経済史の観点から把握することである。具体的な研究テーマは次の通りである。

(1)都市化と電力業の展開
フランクフルト・マム・マインの電力業の分析を通じて、都市自治体給付行政の歴史的特質を明らかにするとともに、都市への電力導入から電力の必需化にいたる都市電化のプロセスを辿り、近代都市形成の実像を明らかにした。この成果は、日本語単著及びドイツ語単著として上梓した。

(2)「社会都市」の政策理念
19/20世紀転換期は、国家的社会保障が未整備な中、都市自治体が生活環境の物理的改善と社会政策の展開を通じて、住民に一定の生活条件を保障した「社会都市」の局面と位置づけられる。ドイツでは、「都市の社会的課題」とよばれる政策理念が「社会都市」形成の原動力となったので、この政策理念の思想的研究に取り組んでいる。

(3)都市失業保険の展開と「社会都市」・「社会国家」
ドイツで国家的失業保険が成立するのは両大戦間期のことであるが、都市レベルではすでに1900年代よりその萌芽がみられた。この都市失業保険の展開過程を、ベルリンなどの個別都市の事例に即して実態分析を行い、第一次世界大戦前後の「社会都市」と「社会国家」の重層的関係の解明を目指している。

(4)余暇をめぐる日独比較都市史
両大戦間期は、余暇の組織化が社会政策上の課題として国際的に大きな注目を集めた時期として知られる。その共時性の契機と社会経済史的意義を明らかにするため、全体主義的な余暇の組織化を推進させたドイツの歓喜力行団と日本の厚生運動に焦点をあて、都市史の観点から比較分析を行っている。

講義およびゼミナールの指導方針

「経済史入門」では、近年の経済史の代表的なテーマの紹介を通じて、経済史学のあり方を提示している。本講義の目的は、経済史を学ぶ上で必要とされる基礎的な知識や分析視角を受講生に身につけてもらうことにある。「経済史A」では、近代ヨーロッパを事例として、都市化や工業化など現代社会形成の基礎となる社会構造の変動をテーマに取り上げ、その前提となる政治的・文化的枠組みにも着目する。本講義では、ヨーロッパ社会の歴史的位相を把握するだけでなく、地域研究に必要な分析視角を社会経済史の観点から提示することを目指す。「基礎ゼミ」では、経済史の基本文献の輪読を行い、受講者に経済史研究の入門的な体験が出来る場を提供する。大学院の「西洋経済史」では、近代ヨーロッパ経済史に関する英語ないしドイツ語の専門文献の輪読を通じて、最新の研究動向に触れる機会を設ける。「比較経済史」では、経済史学の古典や最近の注目すべき文献を手がかりに、市場経済の展開過程を比較史的観点より検討している。

学部のゼミナールでは、3年次の近現代ヨーロッパ経済史に関する文献の輪読と、4年次の卒論執筆を通じて、現代社会が形成された歴史的経路を把握するとともに、歴史学的な思考方法を涵養することを目指す。大学院のゼミナールでは、履修者の研究報告にもとづく論文執筆の指導に重点を置き、1次史料に基づく緻密な実証析の方法を体得してもらう。

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