研究科・学部紹介

研究科長のメッセージ

研究科長 黒住英司

コロナ禍での経済の停滞や社会の変貌を経て,再びもとの経済・社会に戻れるという期待に反し,世界は大きく変わってきています。ロシアのウクライナ侵攻や世界的な気候変動により資源・食料価格は高騰し,日本では長く続いていたデフレ(物価の下落)がインフレ基調に転換しています。インフレの進行に伴い,長く続いた低金利時代も終焉し,再び金利のある時代をむかえ始めました。一方で,賃金上昇率はなかなかインフレ率に追い付かず,実質賃金は伸び悩んでいます。為替レートも大きく変動し,円安が長く続いています。このような不確実性を伴う変動の激しい世界で,我々はどのように問題を克服して発展していけばよいのでしょうか。今や世の中の課題を発見して解決していく能力は必須となっており,中学や高校でも「課題発見・解決能力」が広くうたわれています。では,その能力はどのようにして身につけていくのでしょうか。そのための手段として経済学は有用であり,また,自分自身による自分の教育「自己研鑽」が大切になります。

経済学は論理性を重視した体系的な学問であり,基礎から段階的に積み上げて学ぶことにより,論理的な思考能力「ロジカルシンキング」が身につきます。世の中で起きているできごとを客観的に見つめ,経済学的な観点からロジカルに考えることにより課題が浮かび上がり,その解決策についても経済学的な立場から判断して答えを導き出していきます。この過程で大切なことは,ただ単に経済理論だけで考えるのではなく,データに基づく裏付け,すなわち,エビデンスに基づくロジカルシンキングです。エビデンスという強い味方と経済学に基づくロジカルシンキングでものごとを判断していけば,たどりつく帰結が机上の空論に終わらずに意味のあるものになるでしょう。

一橋大学経済学部では,専門科目は100番台,200番台,300番台とレベルに応じで段階的にナンバリングされており,基礎から応用まで積み上げ方式で学んでいくことができます。特に,100番台には「経済学入門」をはじめとするコア科目を設定しており,学生が一から経済学を学べるようなシステムになっています。また,200番台にもコア科目が設定されており,コア科目の知識をベースにより専門的な科目を履修し,3年次からはゼミによる少人数指導でより専門性を高めることができます。さらに学びたい学生には5年間(学部4年と大学院1年)で修士号まで修得できる「5年一貫教育システム」があります。大学院修士課程においても中級と上級のコア科目やさまざまな専門的な科目が開講されており,さらに,「専門職業人養成プログラム」では4つの分野に特化した教育を受けることができます。一方で,一橋大学は海外に多くの提携校があり,留学のチャンスにも恵まれています。こうした機会も積極的に活かしてもらいたいと思います。

経済学の習得にはその専門家である教員による講義や指導は確かに必要ですが,その知識や技術をいかに社会に役立てていくかは皆さん自身が考えていかなければならないことです。習得した知識・技能を実社会で応用してくためには,自分自身で考え,実践していくことが不可欠です。教員はヒントを与えることはできますが,皆さん一人一人の置かれる立場や状況は異なるわけですから,自分で判断し,自分で積極的に行動していくことが必要です。そのためにも自分による自分の教育が必要であり,皆さんには自己研鑽を積んで成長してもらいたいと思います。

皆さんが経済学部・経済学研究科で学ぶことを通じて,国内外,様々な分野で活躍できる実力を身につけられるよう期待しています。